佐久間象川

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zoom RSS ピアニスト・ブログの継承(10)

<<   作成日時 : 2013/09/26 09:40   >>

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ピアニスト・ブログの(9番目)の記事: 
★[A-9] プロとアマ:[A-9][2005/05/19]
、である。
   ★ ★ ★ ★ ★ ★  (ピアニスト・ブログの記事、のコピー)

世界的なピアニスト、フィリップ・アントルモンによる7人(6カ国)の若手ピアニストへのレッスン(スーパー・ピアノ・レッスン)がTV放送されている。
参加している受講者の若手ピアニスト達も、それぞれ輝かしい経歴・実績を持ってウィーンで留学修行中の人達である。 この放送番組で現在までに教材に取上げられた有名なピアノ曲などは、当然彼等は子供の頃に既に音楽会などで演奏した曲であろうに、その最初の一小節から直される。 それを見ても私は左程驚かなかった。 プロ中のプロには、要求されるレベルの高いのは当然だと思って見ていた。

私が吃驚したのは、10歳ごろからウィーンで留学修行している仙波瑠璃子さんの、右手の運指法をアントルモンが直した時である。 並べた二台のピアノの内、左側のピアノに向かっているアントルモンは、右側のピアノに向かう仙波さんの右手の指使いが、見えるのだろうか。 大体自分自身がピアノに向かってあのスピードで演奏する中で、隣のピアノの生徒の右手の指使いがどうして分るのだろうかと、私は呆れ返った。

この情景を見ていて思い出したのは、もう十年以上も前の事だったと思うが矢張りTVの教養講座番組である。 中村紘子さんのピアノレッスンで、ある非常に達者なアマチュアピアニストの運指法を中村さんが同様に指摘したことがあった。
そのときに彼女は「おかしな指遣いをして弾いているのね。 プロではないのだから、その方が弾き易いのならばそれでもよいけれど」と言って、 運指法の間違いを指摘はしたが、それを直すようには強制はしなかった。

アントルモンは仙波さんに向かって、運指法を楽譜に記載されている通りに直すように可也時間を掛けて指導した。 「なぜそこを親指で弾くのか」とのアントルモンの問に仙波生徒が「この方が楽だから」と答えると、親指は指の敏感さが鈍くて粗雑な音になるからそこは人差し指で無ければならない、と理由に遡って説明していた。 運指法を守るようにと言うだけでなく、懇切に納得できるように説明して、注意を与えるのを見て、感動した。
音楽好きではあっても、音楽の技術に就いては全くのど素人である私は、中村紘子さんの時との違いにプロとアマの芸の差を見た想いがした。
いま思うとアントルモンは生徒の右手を見ていたのではなく、音を聴いてどの指で引いているのかを感じ取ったのだろうかとも思う。 若しそうだとすると、プロの芸の凄さである。

ところで、このレッスンを見ていて、もう一つ感じた事がある。 あの素晴らしい指導を受ける機会に恵まれた若者達の幸運を思うと同時に、もう一つ、この先生も実に幸せだなあと思ったのである。

これだけ全力を投入して教えることのできる優秀な生徒と巡り合う幸せは、矢張り滅多に得られるものでない。
論語の説く通り「広く天下の俊秀を集めて教育するのは君子の悦びである」のだ。


ここで、私は大学に入った時の学科の新入生歓迎会での出来事を思い出す。
歓迎会席上で学科の若手助教授二人が論争を始めたのであった。 現在と違って、日本中での大学の数も大学教授の数も圧倒的に少なくて、社会的なステータスとして大学教授とは途方も無く偉いものだと思はれていた時代である。 私は、初めて接した日にその偉い先生同士が、それも学生の面前で口角泡を飛ばして論争するのを見て吃驚した。

発端は、ニールス・ボーアが來日した時の講演を聴いた感動を、S助教授が語った事であった。
20世紀最大の物理学者のボーアは「大学の教師は、たった一人だけでよいから優れた弟子を育て上げる事が出来たなら、成功である」と言ったそうである。
 後に原子力安全委員会の初代委員長になったS助教授は,ボーアのこの講演に感激した日のことを話された。
ところが、これにN助教授が反発した。「他の学生はどうでも良いという事ではないだろう。 全ての学生に夫々に精一杯の教育を与えるべきだ」と言って噛み付いたのである。
そして私自身は議論の中味よりも、偉い先生方が入学してきたばかりで初対面の学生達の前で、この様な真摯な論争をする事自体に感動した。


平凡な資質、ハンデを背負った才能を持った人を育て上げるのも勿論素晴らしい仕事である。 多くの誠実な人々がその様な仕事を人生として生きている。
これに対してこのアントルモンのレッスンの様な、特別な才能の持ち主だけを自分の能力一杯に育てる機会に恵まれる人は、極めて希で運の良い人だけである。 この意味で史上最も幸運に恵まれた人物はエルスネルであったろう。
弟子を育てるのに定評のあった彼が弟子であるショパンに宛てた手紙に、教育法の話があるが、正に其処に書かれているとおり、「弟子に模倣でない、自分の道を開かせた」 結果がショパンであった。
ピアノには限らない。 どの様な仕事をしていても同じだと思う。
 
私自身も、そして多くの友人達も、それぞれの人生で、(大学教授も、企業幹部も、家業の後継も含めて)社会的指導者の立場を経験してきた年齢にある。
その多くの人達が現役を退いている現在、この 「一人でよいから」 の僥倖に恵まれた人はどの位の割合で居るのだろうかと、フト思った

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佐久間象川
2013/09/27 18:40

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
二人のピアニストさんの記事は何時も期待して読んでいただけに今回の経過は淋しい。
私もピアニストさんとは恐らく同年輩だろうから何時も記事に共鳴し、私のような表現力や分析力の弱いものにとっては我がことのように嬉しい批評が多かった。
今回の継承記事も主たるところを拾い読みして、あの時の、あの感情が彷彿として蘇ってきて涙ぐんだ。
今も私はピアニストさんの記事を読ませて頂いたことに感謝しているし、私のブログへのコメントやTBを頂いたことに感謝している。
願わくば再度のご登場を期待している。
Alps
2013/09/27 16:07
此処にコメントを下さったAlps様、メールを頂いた懐かしいお名前の方々、長い間本当に有難うございました。
ツイッターもフェースブックもお誘い頂いて手続きだけはしたのに、技術的に利用できなくて、お叱りを受けながら其のままになってしまって失礼している方々にも、ここでお詫び申しあげます。
二人のピアニスト
2013/09/28 03:46

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