性悪説論者の弁(3)

★ 此処で、この様な話題を始めた理由は、キャズ君の記事: 『耐震強度偽装問題』 、に私が不満だから、と前々回冒頭に書いた。
それに続く彼の『道路交通事故多発の原因』、に就いても同様である。
もっと単純な発想で良いのではないかと、私は思うのである。

それではどうしたら良いか。 万物の霊長などと偉そうな事を言っているが、人間とは極めていい加減で当てにならぬ存在だ、 という前提から社会を構築すれば良い。
一人一人の人間が安心して幸福な人生を送ることが出来る社会を作るのが目的ならば、野放図な自由でなく、ある程度の制約を用意しなければならない
というのが私の主張である。

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★我国の「人権屋」は安直で無責任である。 
死刑廃止論者の人物が、自分の家族がバスジャックの被害者に成った途端に、警察が犯人を射殺しなかったのを非難した例に見るように、いい加減である( 「福知山線・列車事故の原因①」)。

 また、気軽に死刑廃止を唱えるが、死刑にしない(無期懲役にする)とは、10年位で釈放されて出所する、ということ、だとか、 現実の再犯率の高さも、 それを本当に、どこまで知っているのかも怪しい。
米国、中国、そのほかでも見られるように、懲役800年なんていう判決が出るならば、死刑廃止もまともな議論として聴くに値するが、 死刑の次に厳しい罰は懲役10年、 という国での死刑廃止は、問題だと思う。

★それは、例外的に無責任な人間を言っている、と思うかも知れない。
そこで逆に、今度は極めて出来の良い人物の「人権屋」の話をする。
私が尊敬する某先輩は、理想家肌の学者で、芯からの善人である。
頭脳優秀なこの人は、東大教授を定年退官した後も、 人類の将来を思い、日本の未来を考えて、 教育改革の提言をする新聞を発行している。
その新聞に寄稿する筆者の全てが、立派な社会的肩書きの持ち主であり、 夫々が傾聴に値する主張を展開されている。

それにも拘らず、それら寄稿者の中で、過去に極めて無造作になさった行為に依って、世間一般に大変に迷惑・被害を与えた事例が幾つか有るのが、 私は気になる。
その方々ご自身は悪意が無く、気付いてない事だが、 寧ろ、その悪意の無い点に、私は拘わる。
 

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具体的な一例を挙げる。
 (元・東大教授)A氏は、自分の指導した大学院博士課程修了者K氏を、 自分の後継者(東大教授)にする程に有能な人材でない為、 某国立地方大学へと就職の世話をした。
正確に言うと、Kは研究能力の不足以前に、人格的に可也問題のある人物であった。
 しかし東大の博士号は影響力が大きいから、Kはその勤務先の大学内に力を持ち、その不見識さに依って、大学組織にも、多数の学生達にも大変な害毒を撒き散らした。( 「内申書裁判」

(本当は私はその(元国立・地方大学の)K教授の行状を具体的に書きたいのだが、それをすると文章が長くなり、論旨が散漫になるので、機会を改める事にする。
が、若し納税者の国民が知ったならば怒り心頭に達する態のことである。)


A東大教授は、自分の目の前に居た若者、K氏を路頭に迷わせず就職させてやった ~ 良い事をした、 位の気持ちであろう。
その結果として、どれだけ多くの人が迷惑を蒙ったか、の自覚は持っていない。

丁度、安易な人権屋が、善意で社会に野放しにした犯罪者によって、犠牲になる被害者に無頓着なのと同一である。 (「米国だより ②」



★例えば政府の科学研究費の配分などで、東大教授は権限を握っている為、 地方の弱小大学に対して強い立場にいる。
そこから押付けられたら、地方の大学では断りきれない(本当は、これもおかしいのだが)。
企業に就職の世話をするよりも、地方大学に押し込む方が容易だ、という事情も有る。

学生の就職の面倒を見る事自身は、悪い事でない。
但し、教育者として貼り付けるのには、それなりの本人の資質が必要である。
就職させるのが容易だという事で、いい加減な人間に地方大学教授の肩書きを与えることに依って、 送り込まれた大学の、何千人と言う学生が被害に逢うのだから、 その家族を含めると、何万人の被害者が出たのだ。

★この東大名誉教授A氏が上記の私の先輩の新聞に書いた文章が、余りに素晴らしく、論旨が立派であったのを見て、 私は非常に虚しさを覚えた。
あの立派な主張を展開なさるよりも、 無造作なご自分の行為のために、社会がどれだけのマイナスを背負ったかを、A氏に考えて頂きたかった。
多分、私の承知しているのと同様な事は、他所でも有っただろう。

★恐らくは、初めは、この東大教授にも躊躇いもあってやっていた事だろう。
でも毎年、研究室の学生就職の世話を繰返す内に、次第に感覚が麻痺してきて、 遂には全く罪悪感無しにそれを行なうようになったのだろう。
麻薬と同じである。

しかし、若しも社会制度として、世話をした学生が就職先で不適切な行動をしたならば、(切腹とまで言わなくても)、紹介者の責任が問われるシステムが有ったならば、 事態は違っていたと思う。
あれ程立派な文章を書き、素晴らしい提言をする著名な、その東大名誉教授のしたことを思うと、私は矢張り歯止めとして法律による厳格な罰則が無ければ駄目だと思う。

人間の善意だけを期待しては駄目だと思う。 麻薬の対策も同様である。
「工学教育と設置審議会」


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★私の信条は、性悪説である。  限りない自由を放置して置く性善説、の対極にある主張である。
この考え方が根底にあれば、 キャズ君のように、①「法科偏重社会」と、②「マスコミの低俗化」との、二つを分離して対処しなくても、それで済むのである。
権力の有る所には、重大な責任を持たせておかねばならぬのである

★キャズ君の挙げる、①の法制の問題の一例であるが、 以前に私の書いた記事で、日本の教育改革の決め手として、大学設置審議会に絶大な権限を付与し、同時に委員が見通しを過った場合は死刑を用意して責任を問え、と陳べた[ 「デノミの勧め・2」*大学と大学教授]。
こうすれば、無責任行為は無くなる。

②のマスコミ人種の無責任の問題も、同様である。
バブルの時に「北海道の土地を買うのが経営者の責任」だと煽った評論家は、 切腹しろ、とまでは言わないが、せめて、己の責任を思って以後のテレビ出演を自分で辞退するのがスジである。
最低限、その以前の出演料を返却して、社会に詫びるべきである。
 更に言うならば、その様な人物を出演させたテレビ局の担当者も、(切腹とまでは言わないが)、辞職して責任を取るべきである。
 現状では、その評論家は現在も、大きな顔でテレビに出ている。 責任を問うシステムが全く無い、のが問題なのである。 

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★今、私が言った事は現在の社会では、非常識に見えるかも知れないが、 百年足らず前の日本では、引責自決は当たり前の事であった。
責任を取って切腹するという事が無くなったのは、1945年以後である。
責任を厳しく問うシステムが機能しなくなると、「責任に対する感度が消える」。
現在の破廉恥が平気な社会が出来たのは、それ以後である。


3000年も前ではない。  数十年前の日本では普通のことであった引責自決は、 当時はその様な習慣はあり、常識はあったが、 法律は無かった。
これから先は、明文で法律を作って置くべきである。
発言の責任を問うシステムが、法律として有れば、生じなかった、同様な例は至る所に見られる。

例えば、叙勲制度案に反対し、国会での不成立に導いた社会党議員の殆ど全員が、その後、叙勲を求めて運動した
こんな事は、百年前の日本では、有り得ない事であった。

「人権屋」がのさばり、初めは、恐る恐るやっていた事でも、次第に不誠実に利益を追うことが感覚に逆らわなくなってきて、遂には全く罪悪感無しに、それを行なうようになった。
それは丁度、前記の東大名誉教授A氏が罪悪感を持たない、のと同様である。

私は、荀子の性悪説に立ち返って、社会を建築し直すのを提唱する。
 「耐震強度偽装問題」に関して、キャズ君の挙げた二つのテーマは同根であり、要するに一つの事の二つの側面に過ぎない。
問題を生じた根源は、現在の社会の構築を性悪説に基づいてしなかったこと、のツケだと思う
それが、 社会的指導者たるべき有識者や評論家の無責任な行動を生み、 社会党議員の破廉恥な叙勲獲得運動にも繋がっている。

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参考:
★[B-24] [2005/12/29]:性悪説論者の弁(1)
★[B-25] [2006/01/07]: 性悪説論者の弁(2)
★[B-51]:性悪説論者の弁(4)

この記事へのコメント

2006年01月09日 22:04
はじめまして
難しいことを理解する力量に乏しいのですが、
>要するに一つの事の二つの側面・・・
複数の問題の根本を追求して一つの事に到達し、そのたった一つを改善すべきという姿勢に共感させて頂きました
佐久間象川
2006年01月10日 05:24
ロング様、
コメントを有難う御座いました。 古典落語を愛好するという共通の道楽を持つロング様に見て頂いた事を嬉しく思いました。
お時間の有る時に、以前の記事ですが、「エプリルフールhttp://yamak.at.webry.info/200504/article_4.html)」もご覧になって下さい。

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