「人間の評価」に就いて(2)極端な事例

★毎年、春秋の叙勲の名簿を見る時、虚しい気持ちになるのは、私だけだろうか。
 社会で働き、生きてきたということは、現実社会の裏も表も見てきた、ということである。
 その種の記憶を多く脳裏に蔵っている老人としては、アイツは勲何等か,アイツは今年も貰えなかったなどと思って、毎年この時期の新聞を見てきたが、矢張り不具合を指摘する声も有ってか、「勲何等」は無くなった。
だが褒章制度になっても、実体は何も変わらない。 役所の都合で尤もらしい格付けをするだけの事である。
  両極端とも言うべき二つの事例、 を挙げる。

①:日本国の出す叙勲に最も相応しい杉原千畝氏。
  杉原氏へは叙勲は愚か、外務省がその名誉回復をしたのが、
      2000年10月10日になってからである。


5000人のユダヤ人の命を救い、日本のシンドラーとして知られる杉原千畝氏は、
 1947に依願退職の形で外務省を去っているが、実際はユダヤ人へのビザ発行が訓令違反に問われた為(終戦後である!)。
1986に死去、1991/10に外務政務次官が遺族を招いて功績をたたえ「復権」、2000/10/10に外務省が名誉回復した。

天下りは愚か、就職の世話もして貰えなかった氏は、戦後の日本で、行商で生計を立てた。
 エルサレムのヤドバッシム皆殺し博物館への通路の街路樹に、日本人として唯一人、名前を刻まれている杉原千畝氏に対する処遇が、この様なものである。



②:一方、最も相応しくないと言うか、日本の恥ずべき叙勲対象者は、
     旧社会党の代議士達である。


叙勲制度は人民の平等に反すると言って法案に反対して、国会で法案の成立を潰した社会党の代議士達の殆どが、その後、生存者叙勲を受けた。
そのとき本人達は、より上位の叙勲を獲得すべく、陰で運動した。
 叙勲制度に反対した同僚たちも皆、祝賀会に参列した。


 その無恥さ加減は、死刑廃止論者だった男が、東名バスジャック事件で母親が殺された途端に豹変した、のと同じである。 {ピアニスト氏:: 一戦中派の感慨、:昔の人に、また逢はめやも(2)『無名の母親』より引用}。 


★栄典制度には、与えられる側のいい加減さと同様に、与える側の無責任さもある。
大学の名誉教授などというものは、現在では大して値打ちのあるものとも思えぬが、それでも一応は肩書きとして通用する。
 然しそれが如何にいい加減なものであるか、つまり本当に功績の有った人物に贈られるのでなく、寧ろ逆であることの一例を、これもピアニスト君が嘗て書いていた( 歴史認識(2))から引用する。

[大学紛争の最中に、Y君の大学は教授会構成員に学生を加えようとした。
 教授会で、殆ど全ての教授が沈黙して、この事が決まりそうになった時に反対の発言をして、その決定を阻止し、その後の大学の命運を救ったのは、本来教授会では発言権の無い庶務課長O氏と、O教授であった。(中略)。
大学の最大の危機の時に会議で沈黙を守った教授達はその後、大した業績が無くても貰える様に名誉教授の資格基準を安直に手直しして、自分らは名誉教授称号を獲得したが、O教授には贈っていない。]

これが、事件の現場に居合わせた人が行なっても、評価というものが出鱈目である良い例証である。


★でも人間のすることに過ちは避けられないというのであれば、
   評価の誤りが明らかになった時点で訂正をすべきであろう。

例えば、文教政策として、
  多人数教育を推進したが故に叙勲された人物の名は、若しも少人数教育こそが望ましいと分ったなら、その時点で遡って叙勲を取消すべきだ。
  若しも産学協同が望ましいとなったならば、以前に産学協同をして処罰を受けた国立大学教授の名誉を回復し、
  昔彼らに処罰を与えた官僚を処罰すべきであろう。


こうした過去の評価の過ちを訂正する仕組みが無いならば、最初から叙勲等の栄誉を与えなければ良いのである。


以前にも書いたことであるが( 「デノミの勧め・3」教育行政)、もう一度繰返して再掲する。

★官僚の大多数の子弟は、私立中学に行くから、全国でも最も私立学校数が多いのは東京、その東京で公立小から私立中への進学率が際立って高いのは千代田区である。
それまでの教育制度を変えて、学校群という制度を東京に作った小尾という役人は、
  都民にそれを押付けながら、自分の子供は、エリート集団である(所謂進学校)に入れていた。
 永井という当時の文部大臣、も同様。
 流石にその弊害が目に余り、近年、学校群は手直しされた。

★毎日新聞(2005/7/20)に、センター試験を大学受験資格にせよ、という主張が、現在の大学生の学力低下とか、理系離れとかの根本的対策として提案されていた。
 センター試験の前身の共通一次試験の導入の時に、良く主張された意見と同一である。
  ということは、現行方式を進めて来たことは誤った選択であったことが、実績に依って証明された事である。
 
民間会社ならば経営判断の誤りを経営者は責任を取る。
  役人だって、昔ならば切腹である。
  当時の文部官僚は、最低限、退職金くらい返還すべきであろう


当時の国立大学教授の大多数は反対していた共通一次試験を押し切って推進した結果が、予想された通りの今日の教育界の惨状である。
  私は(教育制度改悪)の決定の罪深さは、太平洋戦争のA級戦犯の数倍である、と信じている。

官僚に限って、結果が良くても悪くても多額の退職金と、叙勲が保証されるのは可笑しい。
 その官僚には場合に依り、死刑だって有るべきである。
 死刑とは非常識だ、などと気軽に言わないで貰いたい。
 税金を納められないで、自殺したり、家庭崩壊する現実があるのだから。



「既成事実は追求しない、という事は、日本人の美徳」なのだろうか。
    文明国としての、後進性の象徴なのだろうか。


 私は、「死ねば、みんな仏さま」、と言って、生前の所業に無関心な、小泉首相を好きになれない。

 それは、日本人としての遺伝子を私が持たないからだろうか。
 或いは、佐久間象山や小栗豊後守、といった種類の日本人の遺伝子を、受け継いでいるからだろうか。

この記事へのコメント

若林亜紀(ジャーナリスト)
2006年03月15日 12:00
佐久間さま、いつもトラックバックありがとうございます。今度、佐久間さまが書いていらしたことを掘り下げて取材いたします。
よろしければ私にメールをください。
佐久間象川
2006年03月17日 18:58
「ホージンノススメ」の出版以来、最近の週刊誌やテレビ等での若林様のご発言は一貫していて、大層貴重な存在だと思っています。
但し、社会的な影響の大変に大きな「センター試験」も、その根源が文部官僚の天下り機構に起因する事の追及が、従来は含まれて居なかったのが、残念でした。
どうか、視点を其処まで拡げて頑張って下さい。
イプサム
2006年05月07日 14:50
現在の日本人の中に、
他国から尊敬、感謝されている
人物は、どれ位いるのでしょう?
教育、社会に問題が
あるのでしょうか?
佐久間象川
2006年05月08日 20:45
イプサム様のお書きになったエントリーに杉原千畝の名前がありましたので、この記事をトラックバックした次第でした。

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