伝統文化と常識の変遷(6a)

今年も終わりに近付いて、自分の常識が世間と益々乖離していくことを感じる。 俺は長生きをし過ぎた、とは感じるが、自分が間違っているとは決して思わない。
事実、数十年前には非常識呼ばわりされた私ら仲間の主張が現在では当然の常識と見られていること(地球温暖化の問題、他)が幾つかある。
若しも時間が許せば、証拠の文献を数え上げて次回の記事に示したいが、差しあたっては、それを後回しにして、現在感じていることの幾つかを、此処に述べて置きたい。

尚、言い訳になるが、この主題に回す時間が不足してしまったのは、PCの不調で動きが取れなかったためである。 これも老人の生き難い世相の一つであるが。

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半年前(2007/6/25)に、沖縄戦の記述に関する教科書検定について、
伝統文化と常識の変遷(1) 、に述べたが、2007年も残すところ僅か100時間程になった12月26日に、一応の決着をみた。

今回の記事の目的は、その結論を論評する事に在るのでないから、詳細は省くけれど、
沖縄県民の強い姿勢に政府当局も流石に譲って、「日本軍の関与」の記述を復活するのを認めた。

但し、教科書用図書検定調査審議会(文部科学相の諮問機関)の日本史小委員会の顔を立てて、日本軍の「強制」は認めない、という処で決着した。

あれだけ命懸けで自分等の主張を訴える沖縄県民に対して、対立する意見の委員会メンバーが匿名のままの主張で、その顔を立てて貰うことについて、私は非常に割り切れないものを感じる。
沖縄県民は、時間と私財を投じて主張するこのことで、経済的なメリット等何一つないのである。


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処で、その教科書検定審の結論の出た前日、12月26日に、サウジアラビアの裁判所で、集団レイプの被害に逢った女性に、「禁錮6ヵ月、鞭打ち200回の刑」を宣告されたことが報道されていた。

欧米先進国の人間には何の事か分からない話であろう。
その女性は、昨年3月に男7人組に拉致され、人気のない建物でレイプされたのだが、昨年10月の初審では90回の鞭打ち刑が宣告され、控訴したところ、11月14日に倍以上の刑を言い渡された、のだという。

サウジのアブドラ国王は、12月17日に恩赦を発表したが、「判決は妥当だ」、との見解だそうである。

イスラム教の教義・信条からは当然であり、妥当なのかもしれないが、欧米の価値観に馴らされている私などには、実に理解し難い話である。

逆に、イスラム系のウェブサイトには、「西洋の圧力に屈するな」との書込み等もあり、人権などについての国外からの非難をイスラム価値観への干渉と捉える意見が少なくない、という。


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キャズ君のブログ記事:▲ 死刑制度の議論、には、死刑制度を巡っての、二人の法相経験者(鳩山邦夫、佐藤恵)の相反する主張が対比して紹介され、それについての彼自身の考えも述べられていた。

世間一般では、この考え方の相反する二人の法相経験者、それにキャズ君を含めても、今回のイスラム法廷と較べてみれば、日本人三人の価値観には殆ど差のない同一のもの、と見る人も居るかもしれない。
しかし、私はそうは思わない。

サウジと西欧のこの価値観の差は、イスラム教文明とキリスト教文明の差ではなく、
神学論争が幅を利かせている世界と、科学的な論理を重んじる世界との差、だと、思うのである。

キリスト教の西欧諸国だって千年前の神学支配の時代にはこうであったし、その意味では、佐藤恵氏は寧ろ今回のイスラム法廷に近い思考である、と思う。
これに対し、鳩山氏やキャズ君は現代西欧的である。


佐藤氏に限らず、日本の可也多くの法律専門家や人権屋は、
イスラム法廷と同じく、善意の市民が安心して生活できる社会を築くため、という視点でなく、
法律第何条に何と書いてある、とかコーランの何処に何と書いてある、ということが、
最高の価値を持つように考えている。


法規という文章に書かれていれば、仮令それが如何に荒唐無稽なものでも絶対の基準であり、 若しも書かれていなければ、常識的にどうでも、社会的な縛りにはならない。
相も変わらぬ日本の官公庁・裁判所・警察(法律専門家)にある。
そのために、危険運転致死傷罪などという法律を作っても、滅多に適用はされないし、わざわざこの法律を作った目的である、「飲酒など乱暴な運転を減らす」、ことには、さっぱり寄与しない。


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今年、2007年の日本を表現する漢字は「偽」だそうである。
今年一年間に、政治家も、官僚も、国民も沢山悪い事をした、というのではなく、従来の潜在的な負債が表面化した年だと、私は思っている。

例えば、年金問題等で、
福田総理や舛添大臣が非難されているが、現実に悪事を行なったのは、前任者、前前任者などであり、それを尻拭いをしている現在の担当者は寧ろ、気の毒みたいなものである。
寧ろ、それ以前の何十年かの大臣たちよりも、褒められるべきである。

それを国民に対して謝罪したのは、現在の首相であり、担当大臣である。
法律的な建前としては、そうすべき理屈になるのであろうが、このような仕組みが続く限り、問題の再発は防げないというのが、私の考えである。

現在の大臣は俸給の一部返済をしたが、前任者達の内、誰一人として在任中の給与の返済を申し出た者は居ない。
矢張り、その問題を生じた時点の担当者の個人的な責任を問うシステムが無いと社会は腐敗するであろう。


沖縄戦の記述に関する教科書検定について、経済的なメリット等何一つないのに命懸けで自分等の主張を訴える沖縄県民と、匿名の教科書用図書検定調査審議会の日本史小委員会メンバーの対立する意見の重さは決して同等ではない。
しかし、法的には委員会の方に力がある。

法科万能の日本の社会システムに付いては、私は何度か書いてきた。
そのツケが愈々回ってきて、最近何年間かは綻びが表面化するようになってきた結果が「偽」だと思っている。

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