「ジャーナリズム」の罪と罰

晩秋氏が、田勢康弘氏の著書:
   「政治ジャーナリズムの罪と罰」(新潮社、1994年2月)
を紹介している:▲「報道」の罪と罰:[L-67]

この本は、私も所持しているが、元々は「フォーサイト」誌に
   1992/10号から1994/1号に亘って掲載された文章に
   手を加えたものであるから、 当時の知識人には
   多く読まれた筈なのだが、 晩秋氏が言うとおり、
   その後の日本の状況に影響を与えることが出来ずに、
   現在に至った。

本の著者の田勢氏は、日本経済新聞社に69年入社、
   85~89年にワシントンに行き、本の執筆時点では
   日経の編集委員兼論説委員である。
        氏自身の表現を借りると、
   当初新聞記者になった氏が、ジャーナリストに
   変わったのは、米国に行ったため、であった。


米国滞在によって、氏は初めて
   海外ジャーナリストの質の高さと、
   日本の新聞が本当のことを書かないことを、
                  知った。
   それは、何かを隠そうとして書かないのでなく、
   「本当のことを知らない」ために書けないのだ、と。

我が国のジャーナリズムは、 欧米と違って
  「検証能力」が無いから、 取材による
  事実の発掘作業が正しく行われていないことに、
  田勢氏はその時点で、初めて気が付いたのだった。

        ★ ★ ★ ★ ★

このことを、著者は数多くの実例を挙げて説明している。
   その様な日本の報道のレベルの低さは、
      ジャーナリストの志の低さに起因する


   良い仕事をした人物が認められて、結果として有名に
   なるのはよいが、出世や金銭欲、名誉欲を動機として
   ジャーナリズムの世界に入る人間たちには、
   「報道」は出来ない。
日本のジャーナリズムが、「第四の権力」と言われながら、
   政治家や官僚になめられてしまった原点である。 

この著者が現役として活躍した頃の、「前倒し報道の
   危険性」、「国益を損ねる外交記事の誤報」や、
   「金丸神話を創った新聞記者」、「思い込み報道
   のケーススタデイ」、などの話題を次々と読むと、
   事件最中の新聞記事の出鱈目さが良く判り、
   この著者の言うことが、誠にその通りだと納得する。

それでなくても、従来から私は身辺で事情を良く知っている
   出来事が報道されるときに、全く歪んで伝えられる
   ことに、毎回腹を立てて見てきた。
その体験から考えると、私自身が知らない社会の出来事も、
   恐らく全て歪んで伝えられているのだろう。
田勢氏の言うように、、日本の新聞が本当のことを
   書かないのは、、何かを隠そうとして書かないのでなく、
   「本当のことを知らない」ために書けないのであり、
   それには深い原因があったのが分かった。 
   我々のように外部に居る人間にはどうしようもない、
   日本の社会的欠陥を知るだけで、暗澹とする。

        ★ ★ ★ ★ ★

そうしてみると、晩秋氏が書いているように、
   『野中氏が現在の日本の国情を憂いて、
   “このような状況が出来あがってしまったのは、
   政治家も、官僚も、勿論悪いが、「報道」が
   その実態を伝えないのが一番悪い”
、と言っている』
         ことを、評価せざるを得ない。
   私も晩秋氏と同しで、野中という政治家は大嫌い
   だが、この発言だけは正しいと思う。

政治ジャーナリズムがお粗末だから、
      日本の政治は良くならない。 
   然しながら、その政治ジャーナリズムが諸外国と
      比べて日本で何故お粗末なのか、というと、
   日本の読者が“誰がどうした”の記事ばかりに
   興味を持ち、深い分析、検証の記事をほとんど
   読まないからだ、と田勢氏はいう。 
   そうしてみると、結局日本人全体に何か問題
   があるのだろうか。

この記事へのコメント

2010年12月12日 17:17
最近の管内閣の迷走ぶり、支持率が20%台に堕ちても、国家財政の悪化が世界の群を抜き、税収を超える赤字国債を出していても、来年度予算を前年以上に膨らませる無責任政治をしていて国家の存亡に無関心な現状。 このピンチを報道しない日本のジャーナリズムは、確かに政治を悪くしている元凶だ。

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