武野・武治

今年の新年の感想、いや日本が大変な目に遭った昨年の
  年末の感想、を我々の老人仲間たちが語るのを聞いて
  いると、一つの共通な思いが滲み出ているのに気付く。
戦中、戦後にそれぞれの職分で働いてきた結果が
     現在の21世紀を迎えた日本の姿であることに、
  「こんな筈ではなかった」との思い
    を抱いていることである。

私が前回の記事:  ▲新年の所感:[B-165]
の冒頭に紹介したピアニスト君や晩秋氏の新春挨拶と
      昨年後半のブログ記事は、
  見方によっては、全部そのような愚痴であるし、
  キャズ君だって同じようなモノ  である。
彼等は、政治家、官僚への不満を書くと共に、その様な現状
  を作り出した最大の責任は、マスコミにある、といっている。

此処で思い起こすのが、 “むの・たけじ”氏である。
 この96歳の老人は、今までに我々の仲間が書き綴ってきた
  のと同じことを生涯に亘って主張してきているのだが、
  若い人に忘れられるといけないので、この人物のメモを
  残しておく。 但し、我々世代は“むの・たけじ”と呼んでいる
  のだが、若い人が読み易いようにこの文中では、
  本名の“武野武治”と表記する。

      ★ ★ ★ ★ ★

略歴を紹介すると、武野武治は1915年生れ、戦前・戦中
  には報知や朝日の新聞記者として中国、東南アジアの
  戦場を取材した。 1945年8月15日、終戦の日に
朝日新聞社を去ったのは、戦争の遂行に手助けしたこと、
    (それが本意でなく、消極的協力だったにしても)、
  に責任を感じたからだった。

武野は言う。 「戦時中、新聞社で何が行われたかというと、
  記事の自己規制、つまり新聞社の自己喪失だった」、と。
武野の書いた「希望は絶望のどまんなかに」(岩波新書)
  に「世の中の動態について、その原因と過程と結果を
  明らかにし、さらに一つの結果が次の新しい原因となる
  筋道を明らかにする作業が、ジャーナリズムの任務だ」
  とある。

武野が新聞記者になりたての頃、先輩に「花鳥風月を
  書けば新聞に載るけれど、それは出来事を纏めた
  トピックスであって、出来ごとの原因や過程を掘り下げた
  ニュースではない」と教えられたという。 そして、
今のマスメデイアが行政や警察の発表モノばかり
  書いていることに、不満を持つ。 「何か問題が
  起きたときに、主語と責任が抜け落ちてしまう」、と。

国家、世の中、他人が悪いというのでなく、
  「誰がどんな責任を負うべきなのか」を抜けさせては
  いけない、という主張は、我々仲間のブログによく見る
  のと同じ主張である。
原発事故を二度と繰り返さないために、自己検証を迫られ
     ている政治家、官僚、科学者、マスメデイアの、
  事故に加担した者たちにきちんとけじめをつけないといけない、
  という発言は我々の意見と完全に同一である。

      ★ ★ ★ ★ ★

日本の国が今の様な状況になったことについて、
  武野は言う。 「日本は敗戦の時にやらねばならないこと
  をやらなかった。 自ら戦争犯罪を裁かず、迷惑を
  掛けた国々に真摯に詫びていない。
 歴史には必ず踏み上がらなければいけない階段がある
    のに、それをすっぽかしてきた」。
  これも我々仲間が従来言ってきたことである。 例えば、
  キャズ君が昨年12月8日に、▲ 日米開戦70年(1):[C-265]
    に全く同じことを書いている。


但し、上記の武野の本には、さらに、
  「歴史の下す因果応報の裁きは厳しい。
  人として必ずやらねばならぬことをやり遂げない人
  に対しては、  歴史の道を前に進ませない
」、
         と書いている。 
現在の世相に対する理解が、
  偶々現在の政治家がどうだ、ということでなく、
  歴史の必然として捉えているところ、に敬服する。

終戦後日本人は必死に働いて、高度成長期を迎え、
  平和産業を発展させた。 しかし、昨年の、
  “明治維新、敗戦、以来”と言われる国難で、未だに
  遺体も収容しきれず、大勢の人々が流浪の民と
  化しているのに、肝心の政治が混迷したままである。

毎日新聞「特集ワイド」欄(2011/10/28)に紹介された
  武野は、「戦時中の新聞社内では、余計なことを書けば
  軍部から圧力がかかると、自らを縛りつけてしまった。
   言い換えれば実態は『自殺』だった。
 原発についても広告主の電力会社を気遣って同じ過ち
  を繰り返したのではないか」、と言っている。
敗戦の日にのうのうと新聞社に居残れずに秋田県に帰郷し、
  週刊新聞「たいまつ」を発行して地域に根ざした
  言論活動を続けてきた96歳の、上記の主張は
  説得力を持つ。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

  • 今も残る民族の病

    Excerpt: 佐久間象川氏が、「武野・武治氏の生き方」を捉えて記事を書いている。その記事を読ん Weblog: cogito,ergo sum racked: 2012-01-27 21:44
  • 今も残る民族の病

    Excerpt: 佐久間象川氏が、「武野・武治氏の生き方」を捉えて記事を書いている。その記事を読ん Weblog: cogito,ergo sum racked: 2012-01-28 10:03